リレーエッセー 第98弾

Lions For Lambs

原 和美(II18EA)

先日新聞にこのような記事がありました。 「後方支援のつもりが前線に立たされて。ブラックバイトで身を削る若者達、コンビニや飲食戦線への学徒動員」。 「後方支援」「前線」「学徒動員」・・・若い人たちにはなじみの無い言葉が並んでいます。 戦後生まれの私も、肌で感じた経験を持ちません。 でも、今の日本の状況が、「後方支援」と言われながらいつの間にか「前線」に立ち、 若い皆さんを再び駆り出すのではないかと不安です。 もちろん、ブラック企業のバイトのことではありません。 でも、ブラック企業のバイトと今の日本の行く末が重なって仕方ありません。


数年前、私はある映画を観ました。「大いなる陰謀」(邦題)ロバート・レッドフォード監督(大ファンです) でご本人も出演しておられました。メリル・ストリープ、トム・クルーズと大スターの競演。 私にとってはそれだけでも魅力的なのに、内容もとても考えさせられるものでした。


映画は、アメリカのある大学。歴史学の授業、教授と学生達の議論。現状の中で何をすべきか?と問われ、 正義・大義のために志願兵として戦場に赴く事を決意する若者達、 でも彼らは又帰ってくれば大学院進学と授業料免除を期待しなくてはならない経済的事情があることも伝えています。 一方、歴史学の授業をサボり「世の中何も変わらない」と関わることを避け続ける優秀な学生、 楽な生き方へと流されつつあることに「君は、行動を起こしたか?」と教授が迫ります。


アメリカはイラクでの戦いが泥沼化する中で、アフガニスタンで勝利をと焦ります。 その作戦に、「世界がより良い方向に向かうのなら」と志願した二人の若者が巻き込まれて行きます。 そして、非情な結末が待っていました。モニターで見ていた指揮官が「作戦終了」を告げます。 これらの作戦の情報を、上院議員がベテラン女性記者を呼びリークし、好意的な世論作りを謀っていました。 「なぜ今それを実行する必要があるのか・・・」という彼女に 「作戦の達成に手段を選ばない」と繰り返す議員に疑惑を感じ、報道することに踏み切れないでいます。


この3つの場面が、映画の中では交互に入れ替わり、同時進行します。カリフォルニア大学・教授の部屋、 ワシントンD.C.上院議員の執務室、作戦が開始されるアフガニスタン、テレビ局報道の現場。


終わりを感じさせない映画でした。これがラストシーンだということを感じさせない映画でした。 「つづく」歴史を今を生きている私たちがどうするかだろうと考えさせられました。


ある時、現実にアメリカの「〜作戦」の戦死者の名簿に一度だけたどり着いたことがありました(ネットで)。 名前・所属・階級・年齢・・・。皆さんとても若かったです。20代が殆んどでした。 「戦死者〜名」と報道されますが、一人一人に名前があり、 友達がいて家族がいて、夢や希望があったと思うとたまらない気持ちになりました。


最後に、この映画の原題は「Lions For Lambs」 ―戦争とは「猛々しく前線で戦う若者達はライオンだが、指揮官達は子羊のようなものだ」―。

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